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「お兄たん、お魚焼けましたよ」

ありがたく受け取りはするが、疑問が残る。いや、疑問しかない。

「お前は誰だ」

「みゃん子です。お兄たん。妹の名前を忘れるなんて!」

俺に妹なぞいない。こいつが勝手に名乗っているだけだ。俺の住み処に、家出少女が住み着いてしまった。そういうことだと思うんだが、始めて会った時のことを思い出すと凄く不審だ。

ヴァイオリンケースを持ち歩いていたから、裕福な家のお嬢様なんだなと思ったら、カルヴィナ……つまりライフルが入っていた。なんで?と聞くと「旧日本軍の残党だから」との事だ。

んなわけあるか。16歳ぐらいだろうお前は。

 

しかもカーヴィンライフルだよ。詳しくないけど、それは日本のじゃないだろ。

家のことを手伝ってくれるのでありがたいが、仕事しろと言いたい。

貧乏なんだよ。家賃と区民税が俺を苦しめているのにコイツと来たら、遊んでばっかりだ。一日がかりで鴨だの鮒だのを捕まえるより、その辺でバイトして鶏肉や切り身を買った方がいいに決まっている。寄生虫とか怖いじゃん。

 

そんな女の子を住まわせて大丈夫かというと、大丈夫じゃない。危険過ぎる。相手の親御さんに訴訟されたら負けるに決まってる。

いちおう男と女だ。脱ぎ散らかしてあるパンツとかに絶句する。

だが、二人ともそれぞれ寄生しているだけで、そこに愛も血縁関係もない。俺には好きな人がいるからな。

声優さんだ。手の届かない相手に恋をしてもいいだろう。

 

半年ぐらいして、依存に気付いた。相互依存だ。

俺もこのションベンくさいクソガキに、わりと依存してるのかもしれないなと。

「お兄たんが儲かったら、どっか旅行連れて行ってね」

悪くないなと思った。鎌倉ぐらいまでなら行ける。横須賀とか。

 

そんな矢先、重大な事件が起きる。

仕事がなくなった。

職場の保証は?「ないんです。雇用保険はあったので、6カ月なんとか頑張りましょう」と、上司も首らしい。

帰宅してみゃん子に告げる。「仕事なくなった」

「ほぅ」動じぬのか。

失業保険で6カ月後までは頑張れるだろうが、その後どこにも勤め先が決まらなくては借金生活になる。

6カ月頑張った。10社は受けた。そして……。

 

「最後のお金でテントを買おう」

みゃん子が言う。17歳になったらしい。

 

「私がお兄たんをお守りするのです」

胸を張って言う。馬鹿なのだろうか。魚と鳥と、どっかから腐りかけの野菜を安く調達する能力しかないだろうお前には。

「実は、私、エージェントなのです。お兄たんを守っていたんです」

「何を!?」

「ほらあそこの先週まで空き室だった部屋、人がいます。狙われています」

「なんで」

「お兄たん、外資系のお仕事でしたよね」

「委託元の委託元がそうだね」

「それです」

「えー」

「軍事テロ絡みなんです。今にも逃げましょう」

「えー」

 

そういうわけでテント。冬になったらどうするんだ。俺はどこに逃げればいいんだ。

みゃん子の生活保護作戦で、なんと凄い安い部屋を借りれた。なに?どうして?どうやった?

俺は俺で、また仕事を始めた。コンビニの店員でもいいや……。

そして、俺はどこかからの刺客と、それをこっそりと処分しているらしき、みゃん子の視線を感じながら今日も生きているのだった。

 

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